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名古屋地方裁判所 昭和44年(む)962号 決定 1969年12月27日

申立人 検事 服部国博

決  定

(申立人氏名略)

右の者から、名古屋地方裁判所裁判官太田雅利が昭和四四年一二月二六日新井功に対する火薬類取締法違反被疑事件につきなした勾留請求却下の裁判に対し、準抗告の申立があつたので、次の通り決定する。

主文

原裁判を取消す。

理由

一、申立の理由

準抗告及び裁判の執行停止申立書に添付の別紙(略)に記載の通りである。

二、判断

原裁判官の認定した事実によれば、「昭和四四年一二月二二日午前九時三〇分頃、鉄道弘済会名古屋営業所業務員が、国鉄名古屋駅構内南口通路貸ロツカー(コインロツカー)番号〇二〇五番内から三号桐ダイナマイト二五本、電気雷管三五本を発見し、愛知県中村警察署へ右の旨を通報したため、同日午後一時一〇分頃から数名の警察官が右ロツカー附近に右ダイナマイト等の預入人の発見のため張込中、同日午後六時七分頃右ロツカーの施錠をあけようとしていた被疑者を発見し、直ちに被疑者に対し右ロツカー内在中物などにつき職務質問を開始し引続き、名古屋鉄道公安室名古屋警備派出所への任意同行を求めたところ、被疑者はこれを拒否し近鉄線ホーム方向へ逃走しようとしたため、二、三名の警察官がそれを制止し、被疑者の両脇に附添い(被疑者は両腕をとられたという)右派出所まで同行したが、被疑者はその途中、右警察官らを振りはらおうとしたり、助けを求めたりした」というのである。

右の通りであるとすれば、被疑者は任意同行を求められた際その意思に基づいてこれに応じたとは到底認められず、むしろ逮捕と同一視することのできる程度の強制力を加えられて前記名古屋警備派出所へ連行されたものといわなければならない。そして警察官等が、ロツカーの施錠をあけようとしていた被疑者を発見したのが六時七分頃で、次で職務質問が行われた後右のように実質上の逮捕が行われたのであるから、その時刻はいくら早くても六時十分頃と推認されるのであるが、右時点において逮捕の要件が存在していたか否かを考えると、関係記録によれば、右ロツカーは利用者が荷物を入れた後扉をしめ、百円硬貨を投入すると鍵がかかるようになるので鍵をしめ、その鍵を利用者が持つて行くもので各ロツカーとも鍵は一個しかないこと、被疑者がその鍵を使用してロツカーをあけようとしたがあかないので帰りかけた際、見張つていた警察官が「中に何を入れたんだ」と尋ねたところ「四日ぐらい前に入れたんだが」と答えたのみであること、右ロツカーには同月一七日から前記ダイナマイト等が入れられ、五日間の使用期間が経過したため二十二日午前九時三〇分頃弘済会職員が事故扱として保管替をした際発見されたことが認められ、右各事実に、任意同行を求めたところ被疑者は逃走しようとしたとの事情を総合すれば、正当な理由なくして右ロツカーを利用して一七日から二二日に至る間、治安を妨げ又は人の身体財産を害せんとする目的をもつて爆発物であるダイナマイト等を所持していたことを疑うに足りる充分な理由のある場合として被疑者を緊急逮捕することができたものと考えられる。只捜査官側においては任意同行のつもりであつたため緊急逮捕に引続き履践すべき手続を直ちになしていないけれども、結局それらは通常逮捕手続の一環としてなされており、しかも前記逮捕が行われたと認められる時から四八時間以内に検察庁へ送致する手続がとられているのであるから、右の瑕疵は本件勾留請求を違法ならしめるほど重大なものとは考えられない。

以上の次第で本件請求は理由があるから、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項に従い主文の通り決定する

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